僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏⑭

この物語は臨済宗でお唱えする「白隠禅師坐禅和讃」の一節から東光寺(静岡市清水区横砂)の僧侶とAIが会話をしながらつむぎだした物語です。
ウシと石ころの庭
森のはずれに、一頭のウシが住んでいました。ウシには、一つだけ悩みがありました。それは、自分の家の庭のことです。
ウシの庭は、土が悪く、ごつごつとした石ころだらけ。何を植えても、きれいな花はすぐに枯れてしまいます。
「どうしてうちの庭だけ、こんなに醜いんだ。」
彼は、お隣のウサギさんの庭にあるような、フカフカの土で、色とりどりの花が咲き乱れる庭を、いつも羨ましそうに眺めては、ため息をついていました。
ウシにとって、自分の庭は、何の喜びもない灰色の世界に見えていたのです。
ある日のこと、旅の庭師である年老いたサルが、その庭の前を通りかかりました。ウシが、いつものように悲しそうな顔で庭を眺めていると、サルはにこやかに話しかけてきました。
「これはこれは、見事なお庭ですな。特に、その石は素晴らしい」
ウシは、きょとんとしました。てっきり、からかわれているのだと思いました。
「え…?石、ですか?この邪魔な石ころのことですか?」
「邪魔な石ころ?いやいや、これは素晴らしい宝の山じゃよ」
サルは、目を輝かせながら言いました。
「もしよろしければ、この宝の山を、少しだけいじらせてもらえんかのう?」
ウシは、半信半疑のままうなずきました。サルがどこかから美しい花や珍しい植物を持ってきて、石ころを隠してくれるのだと思ったのです。ところが、サルは何も持ってきません。ただ、庭にあるものを、じっと見つめているだけです。
やがて、サルはゆっくりと動き始めました。
彼は、庭にゴロゴロと転がっていた石を一つ一つ丁寧に拾い上げ、その形や大きさに合わせて、あるべき場所へと並べ替えていきました。大きな石は組んで小さな滝を作り、平たい石は並べて、心地よい小道を作ります。そして、今まで石の陰で邪魔者扱いされていた、しっとりとした緑色の苔を、大切そうに岩の周りに集めていきました。
ウシは、ただ呆然と、その様子を眺めていました。今まで「醜い石ころ」としか見ていなかったものが、サルの手によって、静かで趣のある、美しい景色に変わっていくのです。
しばらくすると、ただの石ころだらけの荒れ地は、清らかな水の音が響き、緑の苔が美しい、見事な「石と苔の庭」へと生まれ変わりました。
サルは、満足そうに言いました。
「どうじゃな。わしは、ここにあったもの以外、何も使っておらんよ」
ウシは、はっとしました。花が咲き乱れる庭だけが「良い庭」なのではなかった。この場所には、この場所にしかない、静かで穏やかな美しさがあったのです。自分が「庭とはこうあるべきだ」と思い込んでいた心が、庭の本当の魅力を見えなくしていたのでした。
「なんて、美しい庭なんだ…」
ウシの目から、涙がひとすじこぼれました。
完成した庭は、森の動物たちの憩いの場になりました。派手さはありませんが、訪れる者の心を静かに落ち着かせてくれるその庭は、ウシにとって、心からの安らぎを与えてくれる特別な場所になりました。
苦しい世界は、どこか別の場所にあるのではなかった。そして、楽園もまた、遠いどこかにあるのではなかった。ウシは、今いるこの場所で、自分の心の見方一つで、世界は地獄にも極楽にもなるのだということを、静かに学んだのでした。



