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住職のまっすぐな言葉と、寺嫁のまあるいイラストで、今日が優しく調う、ほっとする時間をお届けします。
学び尽くすことは難しいが 学び続けることで自由になる
【法門無量誓願学(ほうもん むりょう せいがんがく)】

突然の沈黙と、手絞りの白衣(はくえ)
天気予報やニュースなどで
「明日は天気が崩れる」あるいは「注意が必要だ」といった情報をあらかじめ知っていても、
実際にその場に立ち、雨に降られたり風に吹かれたりして初めて、
「本当にそうなんだ」と実感することがあります。
日常の中でも、
「頭で知っていること」と「心と体で実感すること」の間には、大きな違いがあるのではないでしょうか。
実は以前、私自身もこの「知識」と「実感」の違いを痛感する出来事がありました。
ある日、いつものように衣(ころも)の下に着る白衣(はくえ)などを洗濯機に入れ、スイッチを押しました。
しばらく離れた場所で別の作業をしていると、突然
ビー !ビー! ビー!
と大きな警告音が鳴り響いたのです。
慌てて駆けつけると、洗濯機は途中で力尽き、完全に止まってしまっていました…
困ったのは、大量の水を含んだまま洗濯槽に残された洗濯物です。
仕方なく、ひとつずつ洗面台に取り出し、手作業ですすぎ、脱水を行うことにしました。
これが想像以上の重労働でした。
特に白衣は生地が大きく、どんなに力を込めて全力で絞ったつもりでも、干してみると水がポタポタと滴り落ちてきます。
腕の力は尽き、手のひらも痛くなりながら、
「洗濯物を手で絞ることがこんなにも大変なことなのか」
と改めて痛感していました。
私は昔から機械の構造に興味があり、洗濯機が遠心力を利用して水を切る仕組みやモーターの原理についての知識は持っていました。
「あぁ、こういう仕組みで脱水しているのだな」と頭では知っていたのです。
しかし、大変な作業のすべてを機械に任せきりにしながら、どこかで「自分は自分で洗濯をしている」と思い込んでしまっていました。
知識として原理を知っていることと、実際に自分の手で絞ってその大変さを身をもって経験することは、全く別物だったのです。
”おかげさま 学んで 気づいて”
禅の教えに、四弘誓願文(しぐせいがんもん)という、仏道を歩む者が立てる四つの誓いがあります。その中に、次のような言葉があります。
【法門無量誓願学(ほうもん むりょう せいがんがく)】
法門とは「私たちを迷いや苦しみから救ってくれる仏教の教え」
無量とは「量ることができないほど多い」という意味。
つまり、
「数限りなくある尊い教えを、誓って学んでいきます」
という誓いの言葉です。
臨済宗妙心寺派では、この言葉を次のようにやさしく訳したことがあります。
”おかげさま 学んで 気づいて”
【誓願学】の【学】とは、単に本を読んで知識をたくわえることだけではありません。
日々の暮らしや体験を通して「気がつくこと」、
そして、心と体で「実感すること」
【学】とはそういうことなんだ、と教えてくれています。
知識として仕組みを知っているだけでは、道具や機械に対する感謝の気持ちはなかなか湧いてきません。
しかし、実際に自分の手で絞り、その重労働と大変さを痛感したからこそ、毎日黙々と働いてくれていた洗濯機の偉大さに気づき、「なんてありがたいのだろう」と心からの感謝が込み上げてきたのです。
「当たり前」から「有難い」へ
私たちは日々の暮らしの中で、
ボタンひとつで動く家電をはじめ、
整えられた生活環境、
そして周りの人々からの支えを、
つい「当たり前」のものとして受け止めてしまいがちです。
しかし、「当たり前」という思い込みは、感謝の心を忘れさせ、自分自身がどれほど多くのものに支えられ、生かされているかという大切な繋がりを見失わせます。
大切な繋がりを見失うと、心は揺らぎ、迷いや苦しみが生まれてしまいます。
知識を深めるだけでなく、体験を通して「ありがたさ」を心で感じ取ること。
自分がすでに多くの教えや繋がりに包まれ、支えられている事実に気づくこと。
それこそが、本来の「学ぶ」ということであり、心を穏やかに調える第一歩となります。
どうぞ時には立ち止まり、ゆっくりと深呼吸をしながら、ご自身の足元を見つめ直してみてください。
きっと日常のあちこちで、温かな有難さやおかげさまに気が付けるのではないでしょうか。
【四弘誓願文 第1句・第2句のお話と絵はがきはこちら】
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