僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏⑱

この物語は東光寺(静岡市清水区横砂)の僧侶とAIが会話をしながらつむぎだしたお盆の習慣に関する物語です。
イノシシ夫婦と忘れられた水路
森のはずれに、畑仕事をそれはそれは一生懸懸命にするイノシシの夫婦が住んでいました。
二人の自慢は、家のすぐそばを流れるきれいな小川です。この小川のおかげで彼らの畑はいつも潤い、たくさんの野菜が元気に育っていました。
夫婦は、毎朝、畑に出る前に、その小川に向かって手を合わせるのが習慣でした。
「川の神様、いつも美味しいお水をありがとうございます。」
豊かな実りは、この小川のおかげだと二人は信じて感謝を忘れませんでした。
ところがある夏、あれほど豊かだった小川の水が、だんだんと減っていきついに流れてこなくなってしまいました。畑の土はカラカラに乾き、元気だった野菜たちは、次々としおれていきます。
「このままでは、畑が全滅してしまう…」
困り果てた夫婦は、何が起きたのか確かめようと、川の流れをさかのぼって、森の奥へと向かいました。
しばらく歩くと、二人は驚くべき光景を目にします。
自分たちの家のそばを流れていた小川は、実は、もっと大きな本流の川から分かれて、人工的に作られた細い「水路」だったのです。そして、その水路の入り口が、長い年月をかけて少しずつ積もった土砂により、完全にふさがれてしまっていました。
二人は、自分たちの畑の恵みが、ただの偶然ではなく、この誰かが作った水路のおかげだったことを初めて知りました。
途方に暮れていると、ゆっくりと老亀の和尚様がやってきました。和尚様は、水路の入り口にあった古い石碑の前で、静かにお経を唱え始めました。
不思議に思った夫婦が尋ねると、和尚様は答えました。
「この水路はな、ずっと昔に、おまえたちのご先祖様が、『未来の子孫たちが食べ物に困らないように』と、みんなで力を合わせて掘ったものなのじゃ。わしは、その尊い行いに、感謝のお経をあげておるのじゃよ。」
夫婦は、はっとしました。自分たちが毎日感謝していた「川の神様」の中には、実は自分たちのことを思って大変な苦労をしてくれた、ご先祖様が入っていたのです。その大きな愛情に気づかず、毎日を過ごしていたことを夫婦は深く恥じました。
二人は和尚様と一緒に、水路を作ってくれたご先祖様に向かって、心からの感謝のお経をあげました。そして、すぐに二人で力を合わせて、水路をふさぐ土砂を必死で掘り始めたのです。
やがて水路は元に戻り、きれいな水が、再び勢いよく畑へと流れ始めました。しおれていた野菜たちも、みるみるうちに元気を取り戻しました。
その日から、イノシシ夫婦の朝の習慣が少し変わりました。二人は、家のそばの小川に手を合わせた後、必ず川上のご先祖様たちが作ってくれた水路の方角に向き直り、もう一度、深く、深く、頭を下げるのです。
自分たちが今、ここに生かされていることへの、本当の感謝の心を、彼らは身をもって学んだのでした。
