僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏㉕

当番でない日の灯り
森の村には、一本道に沿って、夜道を照らすためのランタンがありました。そのランタンを灯すのは、村の動物たちが一日交代で担う、大切な役目でした。
若いトラも、その役目を担う一人でした。彼は、自分の当番の日が来ると、言われた通りにランタンへ行き、火を灯します。
それは「村のルールだから」「やらないと長老に叱られるから」という義務感からでした。火を灯し終えると、あとは自分の家に帰って寝るだけ。他の日のことなど、少しも考えたことはありませんでした。
そんなある晩のことです。自分の当番ではない日に、トラはふと夜中に目を覚ましました。窓の外が、いつもよりずっと暗いのです。
「おや、ランタンが消えているのかな?」
今日の当番は、年老いたウシのおじいさんだったはずです。
「まあいいか。僕のせいじゃない」
トラはそう思い、もう一度ベッドに潜り込もうとしました。しかし、なぜか眠れません。目を閉じると、暗い夜道を、誰かが怖がりながら歩いている姿が目に浮かんでくるのです。
「ちぇ、しょうがないなあ!」
トラは、誰に言われるでもなく、自らベッドから起き上がると、自分の家の油を持ってランタンへと向かいました。ランタンの火は、やはり消えていました。トラが新しい油を注ぎ足すと、ランタンは再び、力強い光で夜道を明るく照らしました。
その時です。道の脇の草むらから、すすり泣くような声が聞こえました。見てみると、ウサギのお母さんがしょんぼりと座り込んでいました。急に熱を出した子供のために、夜しか咲かない薬草を探しに来たのですが、ランタンの火が消えてしまって、何も見えなくなってしまったというのです。
「もう暗くて探せないから、諦めて帰ろうとしていたんです。」
ウサギのお母さんが涙をぬぐった、その瞬間でした。トラが灯したランタンの光が、すぐそばの木の根元に生えていた、青白く光る薬草をキラリと照らしたのです。
「あっ!あんなところに!」
ウサギのお母さんは、その薬草を大切に摘み取ると、トラに何度も頭を下げました。
「トラさん、本当にありがとう!この光がなかったら、見つけられませんでした!」
トラはウサギのお母さんを見送りながら、自分が灯した光が、誰かの希望になったことを知りました。彼の心の中に、今まで感じたことのない、温かい気持ちが広がりました。ルールだから灯す光と、今、自分が灯した光は、まるで違うもののように感じられたのです。
その日以来、トラの心に変化が生まれました。彼は、自分の当番でなくても、毎晩寝る前にランタンの光を確認するようになりました。そして、光が弱くなっていると感じた日には、誰に頼まれなくても、そっと油を持って、ランタンを灯しに行くようになったのです。
彼の自発的な行いは、やがて他の動物たちの心にも火を灯しました。
「当番だからやる」のではなく、「困っている誰かのために、やりたいからやる。」そんな気持ちが村に広まり、動物たちはいつしか、自分の家の前にも小さな灯りを置くようになりました。
村の夜道は、たくさんの優しい光で、以前よりもずっと明るく、そして温かくなりました。誰かに言われたからではない、一頭のトラの「自ら」の行いが、村全体の心を照らす、大きな光になったのです。
