僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏

この物語は臨済宗でお唱えする「白隠禅師坐禅和讃」の一節から東光寺(静岡市清水区横砂)の僧侶とAIが会話をしながらつむぎだした物語です。

 

 

奇跡の音と世界で一番美しい音

森の中に、音楽が大好きな一匹の子ウサギがいました。子ウサギは、いつも考えていました。

「世界で一番美しい音って、どんな音だろう? その『奇跡の音』を見つけられたら、きっと森のみんなの心を、幸せにできるのに。」
 

子ウサギは、耳をすましました。風が木々の葉を揺らすサラサラという音。小川が岩を撫でるせせらぎの音。どれも良い音でしたが、子ウサギが探している「奇跡の音」ではありませんでした。
 

「もっと遠くに行けば、誰も聞いたことのない、特別な音がきっとあるはずだ!」
 

そう考えた子ウサギは、森のみんながまだ寝ている朝早く、お弁当も持たずに旅に出ました。
旅の途中、子ウサギはたくさんの音に出会いました。
小鳥たちの陽気なさえずり、
クマの大きないびき、
市場の活気あふれるざわめき。

 
でも、子ウサギは

 
「こんなの、ただの音だ。ぼくが探しているのは、もっとすごい音なんだ。」

 
と、考えて、どんどん森の奥へと進んでいったのです。

 
やがて子ウサギは、「奇跡の音」が聞こえるという噂を聞いた場所にたどり着きました。

その場所は、しーんと静まりかえっています。

子ウサギは、そこに座り込み、じっと耳を澄ましました。

 

 
しかし、いくら待っても「奇跡の音」は聞こえてきません。

聞こえるのは、自分の心臓のドキドキという音と、谷を吹き抜ける風の音だけでした。

お腹もペコペコです。

 
「どこにも、奇跡の音なんてないじゃないか・・・」

 
がっかりして、お腹を空かせた子ウサギは、しくしくと泣き始めてしまいました。
そのときでした。遠くから楽しそうな声が聞こえてきました。

声のする方へ歩いていくと、リスの親子がピクニックをしているのが見えました。

 

 
子リスが、お母さんリスの作ったお弁当をほおばりながら、言いました。
 

「お母さんのお弁当、世界一おいしいね!」
 

「あらあら、たくさんお食べ」
 

お母さんリスが、とてもやさしい声で答えます。
 

その何気ない親子の会話を聞いた瞬間、子ウサギは、まるで雷に打たれたように、はっとしました。
 

「世界一…?」
 

子ウサギは、ずっと遠いどこかにある特別な「奇跡の音」を探していました。でも、あの子リスにとっては、お母さんが作ってくれたお弁当こそが「世界一のごちそう」なのです。

 
そのとき、子ウサギの頭の中に、今まで聞き流してきたたくさんの音が、急にあふれだしました。

 
「いってらっしゃい」と手を振ってくれた、お母さんの声。
 

「これ、あげるよ」と木の実を分けてくれた、友達の声。
 

「おかえり」といつも迎えてくれる、お父さんのあたたかい声。
 

「そっか…。奇跡の音は、遠くのどこかにあるんじゃなかったんだ。ぼくのすぐそばに、ずっとずっと、たくさんあったんだ…」
 

特別な音を探すあまり、身の回りにあふれる愛情のこもった声や、日々の暮らしの音という、かけがえのない宝物の存在に気づかずにいた自分。その愚かさに気づいた子ウサギの目から、涙がこぼれました。でも、この涙は悲しい涙ではありませんでした。
 

子ウサギは、急いで自分の森へと駆けだしました。
 

森に帰った子ウサギは、もう遠くへ「奇跡の音」を探しに行くことはありませんでした。その代わり、毎日の暮らしの中にある音に、じっと耳を澄ますようになったのです。

  
お母さんが自分を呼ぶ声、友達の笑い声、風の音、川のせせらぎ。

 

その全てが、今まで聞いたどんな音楽よりも美しく、子ウサギの心を豊かに満たしてくれました。
子ウサギは、奇跡の音は、探しまわるものではなく、ただ、「そこにある」ということに気がつくものなのだと知ったのです。

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