僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏

 

 

 

この物語は臨済宗でお唱えする「白隠禅師坐禅和讃」の一節から東光寺(静岡市清水区横砂)の僧侶とAIが会話をしながらつむぎだした物語です。

子ギツネと六つの試練

 森のはずれに、賢くて優しい子ギツネが、おじいちゃんとお母さんと一緒に暮らしていました。しかし、そのお母さんは重い病気にかかり、日に日に元気がなくなっていました。子ギツネは、どうにかしてお母さんを助けたいと、いつもそばにいてくれる物知りなおじいちゃんに相談しました。

 おじいちゃんは、心配そうな子ギツネの目をじっと見て、静かに言いました。


「森の向こうにある『ひかりの泉』の水を持ち帰ることができれば、お母さんの病気は治るかもしれん。じゃが、その泉に至る道は、賢者の心を持つ者しか通り抜けられんと言われておる。おまえに行く覚悟はあるかな?」


「あります!」

 子ギツネは力強くうなずき、お母さんを救うため、賢者への道を歩み始めました。

 旅に出てすぐのこと、子ギツネはお腹をすかせたノネズミの一家に出会いました。小さな子供たちは、寒さと空腹で震えています。子ギツネの旅の食料は、まだ先が長いことを考えると、決して十分な量ではありませんでした。でも、彼は自分の不安を思うより先に、震える子供たちの姿に心を痛め、持っていたパンをすべて一家に分け与えました。

 しばらく進むと、甘い蜜の香りがする、楽そうな近道が見えました。しかし、おじいちゃんは「決められた道以外を通ってはならん」と言っていました。子ギツネは誘惑に負けそうになる心をぐっとこらえ、ごつごつした岩の多い、決められた険しい道を正直に進みました。

 その岩道で、意地悪なサルに出会いました。サルは子ギツネの邪魔をして、何度も小石を投げつけてきます。「やめてよ!」と言っても、サルは面白がってやめません。子ギツネは悔しくて、怒鳴り返したくなりました。でも、ここで怒っても道は進めないと思い直し、じっと我慢して、サルが飽きるのを辛抱強く待ちました。

 次に待っていたのは、どこまでも続くぬかるみの坂道でした。一歩進むと、半歩ずり落ちてしまいます。もうダメだ、と何度も諦めそうになりました。でも、子ギツネはお母さんの顔を思い浮かべ、一歩、また一歩と、一生懸命に足を前に出し続けました。

 やがて、子ギツネは霧が立ち込める「まよいの森」に入りました。そこでは、奇妙な花の香りが満ちており、その香りを吸い込むと、恐ろしい幻が見えるのです。目の前には、牙をむく大蛇がうねり、木の陰からは恐ろしい妖怪が手招きをしています。子ギツネは恐怖で身がすくみ、パニックになりそうでした。しかし、彼はぐっとこらえ、その場で静かに目をつむり、心を落ち着けました。

「惑わされない、惑わされない…」

と、ただひたすら心を静めることだけに集中しました。しばらくして、そっと目を開けると、そこに恐ろしいものはありませんでした。牙をむく大蛇だと思ったのは、ただの木の根っこ。手招きする妖怪だと思ったのは、風に揺れる古い布きれだったのです。

 とうとう、子ギツネはきらきらと輝く「ひかりの泉」にたどり着きました。泉の番人である大きな鹿が、静かに問いかけます。
  

「おまえは、なぜ賢者の心を持つと言えるのかね?」

 

子ギツネは、自分の旅を振り返って答えました。

「僕には分かりません。でも、この旅で学びました。自分のものを分かち合う優しさ、正しい道を進む正直さ、悔しさに耐える我慢強さ、諦めないで続ける努力、そして、恐れに惑わされない静かな心。これらがとても大切なのだと分かりました」

 その答えを聞くと、鹿は優しく微笑みました。

「それこそが、賢者の心への道じゃ。さあ、泉の水を汲んでいきなさい」

 子ギツネは泉の水を壺に満たし、急いで家に帰りました。その水を飲んだお母さんは、みるみるうちに元気を取り戻しました。

 子ギツネは、泉の水がお母さんを救ったのだと思いました。でも、本当はお母さんを救ったのは、水だけではありませんでした。旅を通して、優しさや強さ、静かな心を学び、実践した子ギツネ自身の、その賢者の心がお母さんを救ったのです。子ギツネは、本当の意味で、森の賢者への第一歩を踏み出しました。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です