僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏

 

この物語は臨済宗でお唱えする「白隠禅師坐禅和讃」の一節から東光寺(静岡市清水区横砂)の僧侶とAIが会話をしながらつむぎだした物語です。

 

 

絵描きのネコと龍の洞窟

 

 

森のはずれに、絵を描くのが大好きな、一匹のネコが住んでいました。ネコの夢は世界で一番美しい景色を絵に描いて、見る人すべての心を温かくすることでした。

彼は、森中の美しい場所を訪ね歩きましたが、満足できませんでした。

 

「もっと、もっと美しい景色があるはずだ。まだ誰も見たことがない、本当の美しさが…」

 

そんなある日、ネコは森の長老から、山の頂にある洞窟の奥には、この世のものとは思えないほど美しい景色が見えると教えてもらいました。

ネコは決意し、険しい山を登って、その洞窟へ向かいました。
そして、洞窟の奥深くで、壁の向こうからまばゆい光が漏れている、小さな穴を見つけました。ネコが震える気持ちでその穴を覗き込むと、息を飲みました。

光り輝く雲の海と、どこまでも続く青い空。見たこともないほどの美しい景色が、世界を包んでいたのです。

 
「これだ!僕がずっと探していた景色は!」

 

しかし、その景色の半分は、大きな岩で隠されていて見ることができませんでした。
 

「この岩さえなければ!」
 

ネコが岩をどかそうと、力いっぱい押した、その時です。

ゴゴゴ・・・

洞窟が揺れ、岩だと思っていたものが、ゆっくりと動き出しました。それは、一枚一枚が宝石のようなうろこに覆われた、巨大な龍だったのです。龍は、鋭い目でネコをにらみつけました。

 

「小僧、何者だ。わしを動かそうとするとは。」

 
「僕は絵描きです。どうか、ほんの少しだけ動いてください。あの素晴らしい景色を、一度でいいから全部見たいのです。」

 

すると、龍はにやりと笑いました。


「よかろう。だが、この景色を見るには覚悟がいる。おまえの一番大切な、その『命』を差し出す覚悟はあるか?」

命を失えば、もう絵は描けません。でも、ネコは少しも迷いませんでした。

 
「もし、あの素晴らしい景色をこの目に焼き付けることができるのなら僕の命など、少しも惜しくはありません」
 

ネコは、静かに龍の前にひざまずき、目を閉じました。

しばらくの沈黙の後、荘厳な声が響きました。

「顔を上げなさい」

ネコが目を開けると、そこにいたのは、黄金色に輝き、穏やかな顔つきになった龍でした。
 

「見事な覚悟だ。おまえは、わしの試練に打ち勝った」

 

龍はゆっくりと体を横にずらし、ネコのために道を開けました。すると、今まで穴からしか見えなかった景色が、空の果てから果てまで、ネコの目の前にどこまでも広がっていました。

それだけではありません。龍は、おもむろに空へと舞い上がると、その黄金の体を雄大にうねらせ、眼下の雲の海を泳ぎ始めたのです。どこまでも続く青い空と光の海、そしてその中を舞う黄金の龍。それは、ネコが想像していたものを遥かに超えた、神々しい光景でした。

ネコは、涙を流しながら、夢中でその景色を絵に描きました。

その絵は、見る人すべての心を温かく照らす、世界で一番美しい絵になりました。たった一度の尊い出会いと、真実を求める強い心が、ネコに本当の美しさを描く力を与えてくれたのです。

 

 

 

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