僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏⑲

この物語は東光寺(静岡市清水区横砂)の僧侶とAIが会話をしながらつむぎだしたお盆の習慣に関する物語です。
カワウソたちと上流への道しるべ
豊かな川の下流に、カワウソたちの平和な村がありました。川には魚がたくさん泳ぎ、岸辺には木の実が実り、カワウソたちは毎日楽しく暮らしていました。
村の若いカワウソには、不思議に思っていることがありました。村の年寄りたちは毎朝、太陽に向かって
「今日も一日、ありがとうございます。」
と静かにお祈りをしています。
ところが、一年に一度、夏のはじめの決まった時期になると、それとは別に、みんなで川の上流に向かって石を積み上げ、きれいな花や魚で飾り付けをするのです。
「おじいちゃん、毎日お祈りしているのに、どうしてこの日だけ、特別な飾りつけをするの?」
若いカワウソが尋ねると、長老であるおじいちゃんは、川の流れをじっと見つめながら、一族の古い物語を語り始めました。
「わしたちの一族はな、ずっと昔、もっともっと川上の、流れの激しい山の中で暮らしておったのじゃ。」
おじいさんの話によると、昔の暮らしは大変なものでした。
川はいつも荒れ狂い、恐ろしいワシやクマがカワウソたちを狙っていました。
食べ物は少なく、多くの仲間たちが命を落としていきました。
「このままではいけない。」
そう考えたご先祖様たちは、未来の子孫たちのために、安全な新天地を探すことを決意し、一族みんなで力を合わせ、危険な旅に出たのだそうです。ご先祖様たちは、お互いをかばい合いながらも決して諦めず、長い旅の果てに、ついにこの豊かで平和な下流の土地を見つけ出し、仲間たちを導いてくれたのです。
おじいさんは、若いカワウソの目をまっすぐに見て、続けました。
「あの上流に向かって積んだ石の棚はな、わしたちを命がけで導いてくれたご先祖様への『ありがとう』という特別な気持ちを表すためのもの。そして、その感謝を忘れないための、大切な習慣なのじゃよ。」
若いカワウソは、はっとしました。自分たちの平和な暮らしが、当たり前のものではなく、ご先祖様たちの大きな勇気と犠牲の上にあることを、初めて知ったのです。
おじいさんは、優しく言いました。
「日々の暮らしに感謝することも、もちろん大切じゃ。じゃが、毎日が平和だと、わしたちはつい、この幸せがどれほどありがたいものか、そして、そのためにどれほどの苦労があったかを忘れてしまいがちじゃ。だから、一年に一度、こうして特別な形でご先祖様が来た道を振り返り、感謝を思い出すのさ。」
若いカワウソの目から、涙がこぼれました。彼は、おじいさんの隣に座ると、川の上流に向かって、深く、深く頭を下げました。
その日から、若いカワウソも、毎年その時期には熱心に石を積み棚を飾るようになりました。年に一度のこの大切な習慣が、当たり前の中に埋もれてしまいがちな、大きな感謝の心を思い出させ、この平和な暮らしを守り続けていく力になることを、彼は心から理解したのですから。
