僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏㉑

この物語は東光寺(静岡市清水区横砂)の僧侶とAIが会話をしながらつむぎだしたお盆の習慣に関する物語です。
男の子と鬼灯(ほおずき)のあかり
ある夏、一人の男の子が、大好きだったおばあちゃんを亡くしました。
いつも優しかったおばあちゃんがいなくなり、男の子の心は、ぽっかりと穴が開いたように寂しくなってしまいました。
お盆が近づき、村の家々が提灯を飾り始める頃、男の子は縁側でしょんぼりと空を眺めていました。「お盆には、おばあちゃんがお空から帰ってくるんだよ。」とお母さんは言ったけれど、こんなに広い空で、おばあちゃんは道に迷ってしまうのではないかと心配でたまらなかったのです。
そんな男の子の姿を見て、隣の畑のおじいさんが声をかけてくれました。
「坊や、これを使いなさい!」
そう言って、おじいさんが差し出してくれたのは、提灯のように赤く膨らんだ、不思議な実でした。
「まあ、きれいなほおずき。ありがとうございます。」
お母さんが受け取ると、男の子に優しく言いました。
「よかったわね。この『鬼灯(ほおずき)』はね、ご先祖様が道に迷わないように足元を照らしたり、悪い鬼たちが邪魔をしないように守ってくれる、とっておきの灯りなのよ。」
男の子は、おじいさんの優しさと、お母さんの言葉を胸に、その真っ赤なほおずきを、心を込めて精霊棚に飾りました。
その夜、男の子は不思議な夢を見ました。
夢の中で、おばあちゃんが、遠くからこちらへ向かって歩いてきます。
しかし、おばあちゃんの周りには、意地悪な顔をした鬼たちが邪魔しようと集まっていました。おばあちゃんは、困って立ちすくんでいます。
男の子が「おばあちゃんが、危ない!」と思った瞬間。
昼間飾ったほおずきが、力強く、そして温かい赤い光を放ち始めたのです。
その光は、遠くにいるおばあちゃんの足元まで、まっすぐな一本の道となって伸びていきました。
鬼たちは、その清らかな光をとても嫌がりました。
「うわっ、まぶしい!これでは、わしらの居場所がないわい!」
鬼たちは逃げていき、おばあちゃんの周りには、光の道だけが残りました。
おばあちゃんは、その光の道をたどって、にこにこしながら男の子のそばまでやってきました。
そして、男の子の頭を優しく撫でて、言いました。
「ありがとう。おまえが灯してくれた、温かい『鬼灯(ほおずき)』のあかりのおかげで、無事に帰ってこられたよ。あのほおずきをくれたおじいさんのように、おまえも、自分の大切なものを、困っている人のために惜しみなく分け与えられる、そんな優しい子になっておくれ。」
目を覚ました男の子の心は、久しぶりに温かい気持ちでいっぱいでした。
次の日、晩ごはんの時間です。
男の子のお皿には、彼が一番大好きな唐揚げが乗っていました。隣の席で妹が「いいなあ、私も唐揚げもっと食べたかったなあ。」と、うらやましそうに見ています。
男の子は、以前なら知らんぷりをしていたかもしれません。でも、今はおばあちゃんとの約束があります。
彼は、自分の唐揚げを一つ、そっと妹のお皿に乗せてあげました。
「はい、どうぞ。」
妹の顔が、ぱあっと明るくなりました。
その時、家の精霊棚に飾られたほおずきが、昨日よりももっと、温かく輝いていました。
