僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏㉒

この物語は東光寺(静岡市清水区横砂)の僧侶とAIが会話をしながらつむぎだしたお盆の習慣に関する物語です。
お盆の乗り物
ここは、色々な動物たちが仲良く暮らす、緑豊かな村。夏の日差しが少し和らぎ、そろそろご先祖様方が遠いお空から帰ってくる季節です。
ある日、老亀の和尚さんが、境内で遊ぶ動物の子供たちを、大きな木陰に集めました。
「さて、みんな。ご先祖様方をお迎えする準備は進んでおるかな?みんなはどんな乗り物でお迎えしたい?」
和尚さんの問いかけに、子供たちは目を輝かせました。一番元気なサルくんが手を挙げて答えます。
「はい!ぼくは、ロケットがいいです!びゅーんと飛んできて、誰よりも早くおじいちゃんに会いたいですから!」
「ほう、ロケットか!それは良い考えじゃな。」
和尚さんはにこにことうなずきました。
「では、帰るときはどんな乗り物でお見送りしたいかな?」
すると、今度はリスの女の子が、少し寂しそうな顔で言いました。
「うーん、帰りもロケットだと、あっという間に帰っちゃって寂しいです。だから一番ゆっくり進む、村の乗り合いバスがいいです。そうすれば、おばあちゃんが好きだったこの村の景色を、窓からずっと長く眺めていられると思うから。」
その優しい答えに、他の子供たちも「うんうん」とうなずき、和尚さんもにっこりして言いました。
「素晴らしい答えじゃな。その優しい心を、みんなで形にしてみようではないか。」
その言葉を聞いて、子供たちは大喜びで、それぞれが乗り物を作り始めました。
サルくんは、拾ってきた木の枝を組み合わせて、かっこいいロケットを。
リスちゃんは、家の押し入れにあった段ボールで、可愛らしい乗り合いバスを。
クマの男の子は、大きな葉っぱに墨で力強い馬の絵を描きました。
ウサギの女の子は、お父さんに手伝ってもらって、どっしりした木片で牛の形を彫り上げます。
それぞれが、自分のご先祖様を思う心を、夢中で形にしていきました。
みんなの作品が完成したとき、和尚さんは優しく語りかけました。
「みんな、素晴らしい乗り物ができたのう。ロケットも、バスも、きっとご先祖様は喜んでくれるじゃろう。じゃがな、ひとつ覚えておいておくれ。みんなが生まれるずっとずっと昔から、この村のご先祖様たちは、『早く会いたい』という心を『馬』の形に、『ゆっくり帰ってほしい』という心を『牛』の形にして、ご先祖様をお迎えしてきたのじゃ。」
和尚さんは、クマくんの馬の絵と、ウサギちゃんの木の牛を、見つめながら
「最近お空へ旅立ったご先祖様なら、ロケットも知っているかもしれん。じゃが、もっとずうっと昔のご先祖様は、馬や牛しか知らんかもしれんからのう。どんなご先祖様も、安心して乗り降りができるように、昔ながらの馬と牛の心を大切にすることも、優しいおもてなしなのじゃよ。」
子供たちは、はっとしました。自分のことだけでなく、ずっと昔からつながる、たくさんのご先祖様たちにまで思いを馳せました。
その日、子供たちが作った乗り物は、それぞれの家の精霊棚に飾られました。一番速いロケットも、一番遅いバスも、そして、馬と牛も。
ご先祖様を思う、たくさんの温かい心が、お盆の村を優しく包み込んでいました。
