僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏㉓

この物語は東光寺(静岡市清水区横砂)の僧侶とAIが会話をしながらつむぎだしたお盆の習慣に関する物語です。
少女と浜辺の花畑
海の見える村に、花を育てることが大好きな、一人の少女が住んでいました。少女には、漁師だった優しいおばあちゃんがいましたが、去年の秋の大きな嵐によって帰らぬ人となっていました。
一年が経ち、初めておばあちゃんが帰ってくるお盆の季節がやってきました。少女は、この日のために、特別な花の種を蒔いていました。それは、おばあちゃんが一番好きだったという、海のように深い青色をした花です。育てるのがとても難しく、たくさんは咲きませんでしたが、それでも健気に、数輪の花が咲いてくれました。
お盆の日、少女は、その中で一番きれいに咲いた一輪をそっと摘むと、一人で浜辺へと向かいました。そして、おばあちゃんがいつも船を出していた大きな岩の上にお供えしました。
「おばあちゃん、ただいま。きれいな花が咲いたよ…」
少女が一人で静かに手を合わせていると、突然大きな波が押し寄せ、大切な花が流されそうになりました。
少女は慌てて花を持ち上げました。その時、彼女は、この荒々しくも美しい海が、大好きだったおばあちゃんだけでなく、今まで数えきれないほどの、たくさんの人々の命を飲み込んできたと感じたのです。
「そっか。おばあちゃんは、一人じゃないんだ。この海で、たくさんの人たちと、今も一緒にいるんだわ。」
少女のおばあちゃんだけを思う気持ちが、この海に眠る、まだ会ったことのない、たくさんの人達を思う心へと広がったのです。
「おばあちゃんのお友達にも、きれいな花をあげなくちゃ!」
少女は家に駆け戻ると、庭に咲いていた残りの青い花を、ためらうことなくすべて摘み取りました。そして再び浜辺へ戻ると、今度は波打ち際に、その花々を一つ一つ丁寧に並べました。
村の人々は少女の姿を静かに見守っていましたが、やがて誰からともなく、村人が、自分の家の庭で咲いた花を手に、浜辺へやってきました。そして、少女の隣に、その花をそっと供えました。それをきっかけに、一人、また一人と、村人たちがそれぞれの花を手に集まり始めます。
夕暮れの浜辺は、いつの間にか、たくさんの人々が持ち寄った色とりどりの花で、まるで見事な花畑のようになっていました。その花のじゅうたんを見た少女は、自分のおばあちゃんが、たくさんの仲間たちに囲まれて、穏やかで幸せそうな顔で微笑んでいることを、はっきりと感じました。
たった一人のおばあちゃんを思う心が、やがて、海に眠るすべての心を慰める、大きな花畑となりました。そして、その大きな優しさの中に、大好きなおばあちゃんもまた、温かく包まれていたのです。
この日から、村では毎年お盆になると、みんなで浜辺に花を供えることが、大切な行事になったということです。
