僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏

 

 

アングリマーラ

 

 

むかしむかし、アングリマーラと呼ばれる恐ろしい盗賊がいました。

 
彼は、間違った教えを信じ、「百人を殺め、その小指で首飾りを作れば、偉大な力を得られる」と思い込み、次々と人を襲っていました。
  
アングリマーラの首には、すでに九十九本の小指が飾られていました。あと一人。百人目の相手を手にかければ、願いは叶うはずでした。
そのとき彼は、一番恐ろしいことを思いつきます。それは、自分を産んでくれた年老いた母親を手にかけ、その指を奪うことでした。
 
アングリマーラが母の家へと向かう、その時です。道の真ん中に、お釈迦様が静かに立っていました。
 
「どけ!俺の邪魔をするな。お前も首飾りの一つになりたいか!」
 
彼が剣を振り上げると、お釈迦様は慈愛に満ちた目で言いました。
 
「私はもう、歩みを止めている。本当に歩みを止めるべきは、おまえの方ではないのか?」
 
その穏やかで、しかし心の奥底まで心を見つめるお姿と言葉に、アングリマーラはたじろぎました。
彼は、自分が犯してきた過ちの重さにその時初めて気づき、その場に崩れ落ちて泣きました。お釈迦様は、そんな彼を弟子にしました。
 
「おまえの道は、ここで終わりではない。ひどい間違いを犯した者も、心から悔い改め、正しい道を進むと決意すれば、それは尊い行いへとつながっていく。それは険しい道となるが、逃げることなく歩んでいきなさい。」
 
アングリマーラの新しい道は、決して楽なものではありませんでした。
彼が弟子として町へ托鉢に行くと、町の人々は石を投げつけました。「人殺し!」「今さら良い者のふりをするな!」それは、彼が過去に犯した行いの当然の報いでした。アングリマーラは、どんなに罵られても、石をぶつけられても、決して怒らず、ただじっと耐え続けました。
 

 
ある日のことです。アングリマーラが托鉢をしていると、難産で苦しんでいる女性に出会いました。周りの人々は、おろおろするばかりです。アングリマーラは、すぐにお釈迦様の元へ駆け戻り、尋ねました。
 
「お釈迦様、あの女性を助ける方法はありますでしょうか」
 

 
お釈迦様は、静かに言いました。
 
「では、こう言いなさい。『私が、仏の弟子として聖なるものに生まれ変わってから、一度も、故意に生き物の命を奪ったことはございません。その真実の力によって、あなたとお腹の赤ちゃんが、安らかになりますように』と」
 
アングリマーラはためらいましたが、ただお釈迦様の言葉を信じ、女性の元へ戻ると、力強く、そして心を込めて唱えました。
すると、不思議なことが起こりました。彼のその真実の言葉が、温かい光となって女性を優しく包み込んだのです。そして、それまで苦しんでいた女性は、穏やかな顔つきになり、元気な赤ちゃんを無事に産むことができました。
周りの人々は、その光景を息をのんで見ていました。

 
 
アングリマーラは、その時、本当の意味で生まれ変わったのです。
過去に犯した罪の、どんなに厳しい報いを受けようとも、ひたすらに、生まれ変わった自分を信じ、善い行いを続ける。その尊い修行によって、大切なことに気が付くことができたのです。

 
かつて、国中で一番恐れられていた盗賊は、その日から、誰よりも深い慈悲の心で、傷ついた人々を癒す、心優しき聖者となったのです。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です