僧侶とAIの共同作業が、お経を物語に変える夏⑦

この物語は臨済宗でお唱えする「白隠禅師坐禅和讃」の一節から東光寺(静岡市清水区横砂)の僧侶とAIが会話をしながらつむぎだした物語です。
うかっりもののニワトリさんと金の指輪
村のはずれに、一羽のニワトリが住んでいました。彼女には、婚約者がいました。
ある晴れた日の午後、婚約者は彼女に指輪を贈りました。
「結婚しよう。君をずっと大切にするよ。」
「まあ…!」
彼女は嬉しくて、天にも昇る気持ちでした。
それからの毎日は、夢のように幸せでした。彼女は指輪を見るたびに婚約者のことを思い出し、心は温かい気持ちで満たされました。
指輪の輝きは、まるで二人の幸せな未来を映しているかのようでした。
しかし、何日か経ったある朝のことです。彼女は目を覚まし、ふと自分の翼に目をやりました。
「あれ…?」
いつもならそこにあるはずの指輪が、どこにも見当たりません。
「ない…ないわ!指輪がない!」
彼女はパニックになりました。家中を探し回りましたが、指輪は見つかりません。
「どうしよう、あんなに大切なものをなくしてしまうなんて…」
彼女の心は、どんよりとした曇り空のようになってしまいました。
「きっと、私は彼にふさわしくないんだわ。だから、指輪がどこかへ消えてしまったんだ。」
そう思い込むと、どんどん悪い方へ気持ちが沈んでいきます。
自分は料理が上手なわけでもないし、特別に気が利くわけでもない。彼のような立派なニワトリには、もっとふさわしい相手がいるのではないか。
その日から、彼女は悲しみの道をさまよい始めます。友達が遊びに誘っても「私なんかといても、楽しくないわ」と断り、大好きだったトウモロコシも喉を通りません。
「もう彼と結婚なんてできない。私は世界で一番不幸なニワトリよ…」
ただただ、自分の不幸を嘆き、部屋の隅で泣いてばかりいました。
すっかり元気をなくした彼女を心配して、おじいちゃんが声をかけました。
「おまえがそんなに悲しんでいる理由は何なんだい?」
彼女は、泣きながら答えました。
「婚約指輪をなくしてしまったのです。だから、もう私は彼にふさわしくない・・・」
それを聞いたおじいちゃんは、不思議そうな顔をしました。そして、彼女のもう片方の翼を、そっと指さして言いました。
「おや、おまえが探しているのは、その指輪のことじゃないのかね?」
「え…?」
彼女が自分のもう片方の翼に目をやると、そこには、もらった時と同じ指輪が、ちゃんとはまっていました。
彼女は、呆然としました。指輪はずっと、ここにありました。幸せはずっと、自分の翼にありました。それなのに、自分は勝手に「ない」と思い込み、「自分は不幸だ」と嘆き悲しんでいたのです。
おじいちゃんは、優しく言いました。
「『己が愚痴の闇路なり』という古い言葉がある。苦しい暗い道というのはな、自分自身の愚かさ、つまり、本当のことに気づかない心が作り出す、ということじゃ。おまえの苦しみの原因は、指輪がないと結婚ができないと思い込みで、自分から暗い道に迷い込んでいただけなのかもしれないね。」
彼女の目から、涙がぽろぽろとこぼれました。でもそれは、もう悲しみの涙ではありませんでした。
次の日、彼女は婚約者に会いに行きました。そして、少し照れながら話しました。
「あのね、実は指輪をなくしたと思い込んで、ずっと落ち込んでいたの。でも、ちゃんとここにありました!」
すると、彼はにっこり笑って言いました。
「そうかい、よかった。でもね、もし本当に指輪がなくなってしまっても、僕の気持ちは少しも変わらないよ。だって、この指輪はただの印なんだから。一番大切なのは、お互いを思い合う心だよ。」
その言葉を聞いて、彼女は本当に大切なことに気づきました。彼女の心の中の曇り空はすっかり晴れわたり、まぶしいほどの太陽が輝いていました。
